欧州発の建設テックLitehausがプレシードラウンドで146万ユーロ資金調達

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スタートアップ資金調達

「14カ月の遅延、予算の20%超過、そして10社を超える下請け業者との終わらないやり取り。」

これは、Litehaus共同創業者のティボー・ロネ(Thibault Launay)が自ら経験した住宅建設の現実である。2020年12月にポルトガルで土地を購入し、翌2022年にようやく建設許可が下りた彼らは、夢見た住まいを2024年2月に完成させる予定だった。だが、2025年5月になってもまだ家は完成していなかった。

この経験が、後に欧州建設業界に一石を投じるスタートアップ「Litehaus」誕生の原点となった。

1. なぜ家を建てるのはこれほど難しいのか?

1-1. 住宅建設の分断構造と非効率性

建設業界、特に住宅建築の領域では、設計者、建設業者、施工管理者、インテリアデザイナーなど、多くのプレイヤーが関与し、それぞれがバラバラに動いているのが現実である。この「断片化」こそが、コスト超過や遅延の最大要因だ。

ティボーはこう語る。

「もし私たち夫婦がこんなにも苦労したのなら、世界中に同じ苦しみを抱える人がいるはずだと確信した。」

2. Litehausのビジョン:「建てる」を「買う」ようにシンプルに

2-1. 建設版「Uber」を目指して

Litehausは、建設プロセスの一元化と効率化をミッションに掲げるコンストラクション・テック企業だ。土地所有者やデベロッパーと、建設会社・設計事務所・インテリアデザイナー・施工業者などをプラットフォーム上でマッチングし、進捗・スケジュール・コストの一元管理を可能にする。

「私たちは、住宅建設を“買い物のように”シンプルにしたいのです」

——ティボー・ロネ(Litehaus共同創業者)

その姿勢から、Litehausは「建設業界のUber」とも評されている。

3. 中核戦略:モジュール建築という選択肢

LitehausのGo-to-Market戦略は明確だ。「モジュール建築」を中心に据えることで、以下のような圧倒的なパフォーマンス向上を実現している。

  • コスト削減:30%
  • 工期短縮:40%
  • 廃棄物削減:90%
  • CO₂排出量削減:50%

これは、従来の建設方式と比較して環境負荷が極めて少なく、持続可能性の観点からも注目を集めている。

4. 資金調達と国際展開:欧州から世界へ

Litehausは、2025年5月にプレシードラウンドで146万ユーロ(約2.3億円)の資金を調達した。主な投資家は以下の通り:

  • Cornerstone VC(英国)
  • Explorer Fund(ポルトガル最大級のPEファンド)
  • Claster Group(ルクセンブルクのファミリーオフィス)
  • Pascal Levy(米国Long Journey Venturesのベンチャーパートナー)

Cornerstone VCのロドニー・アピア氏は語る。

「住宅不足はヨーロッパ全体で深刻化しており、建設業界の変革は喫緊の課題だ。Litehausのビジョンは、住宅建設に透明性・品質・信頼をもたらす革命だと感じた。」

現時点では欧州市場に注力しているが、すでに米国の建設会社ともネットワークを構築しており、将来的にはグローバルな展開も視野に入れている。

5. 創業者夫婦の背景と役割分担

ティボーは、ポルトガルに拠点を持つ没入型ゲームスタジオの創業者であり、エンジェル投資家としても活躍してきた人物だ。一方、妻のシミ・ロネ(Simi Launay)は、ナイジェリア生まれ・ロンドン育ちのコンサルタント。アートギャラリー運営や女性向けウェルネスブランドの立ち上げなど、多様な経歴を持つ。

「私にとって、ビジネスとは人の人生を変える手段。住宅という基盤を提供することこそ、最大級の社会的インパクトだと思っています」

——シミ・ロネ(共同創業者)

現在はティボーが資金調達・事業開発・テクノロジーを、シミがマーケティング・コミュニケーション・デザインを担当している。

6. 最後に:家が建つより先に企業が成長した

興味深いことに、彼らがLitehausを創業し、146万ユーロの資金を調達し、2人の子どもを授かったのは、彼らの「自宅」がようやく完成する前のことだった。

「来月、ようやく引っ越します。建設開始から4年、完了予定から14カ月遅れての入居です。この痛みを、世界中の誰にも味わわせたくない。」

——ティボー・ロネ

Litehausは、この個人的な苦い経験から生まれた。だが、その原点こそが、数百万もの人々に希望を与える原動力となっている。