建設業界では、プロジェクトマネージャーや現場監督が現場の進捗状況から切り離されてしまうことが多くあります。コスト管理、ステークホルダーとのコミュニケーション、請負業者のパフォーマンス確認といった多岐にわたる業務の中で、現場の実態を正確に把握するのは容易ではありません。
こうした課題に対して、AIとコンピュータビジョンを活用し、建設現場の可視化と最適化を実現しようとしているのが、米シカゴに拠点を置くスタートアップ「Buildots(ビルドッツ)」です。本稿では、Buildotsのビジネスモデルと最新の資金調達、さらには建設業界におけるAI活用の最前線を解説します。
1. Buildotsとは何者か?:360度カメラ×AIによる現場進捗の可視化
1-1. 創業の背景とコア技術
Buildotsは、2018年にRoy Danon氏、Aviv Leibovici氏、Yakir Sudry氏によって設立されました。彼らが提供するプラットフォームの核となるのは、ヘルメットに取り付けられた360度カメラとAIの組み合わせです。施工現場の映像を自動で処理し、進捗状況を把握・分析・予測するシステムを構築しています。
この技術により、現場管理者はタブレットやPCからリアルタイムに建設の進行状況を確認できるだけでなく、チャットボットで進捗に関する質問を投げかけたり、リスク予測ツールを使って遅延やコスト超過のリスクを事前に把握したりすることができます。
「これは、現場監督や建設会社の経営者にとって変革的です。バラバラな情報に依存せず、信頼できるデータに基づいて意思決定が可能になります」—— Roy Danon(Buildots CEO)
2. 資金調達と成長戦略:シリーズDで4,500万ドルを獲得
2-1. 資金調達の詳細
2025年、Buildotsは、シリーズDラウンドで4,500万ドルの資金調達を実施しました。リード投資家はQumra Capitalで、OG Venture Partners、TLV Partners、Poalim Equity、Future Energy Ventures、Viola Growthなどの既存投資家も参加しています。
これにより、同社の累計調達額は1億6,600万ドルに達し、建設テック業界でも有数の資金力を持つ企業の一つとなりました。
2-2. 今後の展開:建設ライフサイクル全体への対応
Danon氏によれば、この資金は主にプロダクトの拡張に充てられ、施工プロセスのさらに広いフェーズ(設計段階、仕上げ工程、アフターメンテナンスなど)にも対応できるようにする予定です。蓄積した過去のプロジェクトデータを活用し、AIモデルの精度を高めることで、より高度なベンチマークと最適化を実現する方針です。
3. 建設業界におけるAIの潮流とBuildotsの競争優位性
3-1. 競合との比較
Buildotsと同様に、建設現場でのAI活用に取り組むスタートアップとしては以下のような企業が挙げられます。
- Versatile:クレーンや建設機器のデータを解析し、作業効率を可視化
- BeamUp:AIを活用した設計支援プラットフォームを展開
ただし、Buildotsは、「現場作業の可視化」から「意思決定支援・予測」までを一気通貫で行える点で明確な差別化が図られています。
「私たちの差別化要因は、オペレーションに特化したプラットフォームと、施工管理におけるパフォーマンス指標へのアプローチにあります」—— Danon氏
3-2. 組織体制とスケール戦略
現在、Buildotsは、230人以上の従業員を擁し、特にR&Dチームの強化を進めています。2025年には北米での事業展開を本格化させる計画もあり、営業・技術両面での拡大を視野に入れています。
4. 変革期にある建設業界:Buildotsがもたらすインパクト
建設業界は、これまで「紙と経験」に依存した非デジタルな現場が多く、プロジェクトの遅延・コスト超過が常態化してきた分野でもあります。こうした状況を変えるためには、現場のリアルをデータ化し、客観的に判断できる仕組みが不可欠です。
Buildotsの取り組みは、まさにその中心をなすものであり、従来の主観的な進捗確認を脱却し、「データに基づく施工管理」という新たな常識を打ち立てようとしています。
AIと建設現場の融合は、単なる業務効率化にとどまらず、「どうすれば工期通りに、予算内で、品質を担保して建物を完成させられるか?」という根本的な問いへの回答を与えるものです。
Buildotsはその答えを、実行可能なかたちで提供し始めた企業の一つとして、今後の業界標準となる可能性を秘めています。今回の資金調達は単なる成長資金というだけでなく、建設業界が変化を本気で求めている兆しともいえるでしょう。