埋込型保険 BolttechがシリーズCで1億4700万ドルを調達

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スタートアップ資金調達

保険業界において、オンライン消費の拡大は、「購入の瞬間に保険を売る」新たな挑戦を生んでいる。顧客が商品を購入する「その時」に、最適な保険や保証オプションを提示できるかどうかが、ビジネスの成否を分ける。こうした課題に対する解として、急成長しているのが「埋込型保険(Embedded Insurance)」のソリューションである。

この領域のリーディングプレイヤーが、シンガポール発のスタートアップ Bolttech(ボルトテック)だ。同社は2020年に創業し、保険と流通チャネルを結びつける「接着剤」のような役割を果たしてきた。そして2025年6月、シリーズCラウンドで1億4700万ドルの資金を調達し、評価額は21億ドルに到達したことを発表した。

1. Bolttechのビジネスモデルと成長軌跡

1-1. B2B2Cモデルで広がる保険の販売網

Bolttechのコアは、保険商品をeコマースやデジタルプラットフォームに埋め込み、エンドユーザーに自然な形で提供する「B2B2C型インフラ」である。保険会社と流通事業者を結びつけ、顧客がスマートフォンや電化製品を購入する際に「延長保証」や「損害保険」を同時に提案できる仕組みを提供している。

創業からわずか5年で、世界230社以上の保険会社と提携し、700を超える流通パートナーとネットワークを築いてきた。提供商品は6,500超に及び、グローバルなプレゼンスを確立しつつある。

2. シリーズC調達の詳細と戦略的パートナーシップ

2-1. 投資家構成とSumitomoとの提携

今回のシリーズCでは、Dragon Fundが主導し、Baillie Gifford、Generaliなどの既存投資家に加えて、住友商事(Sumitomo Corporation)やポルトガルのIberis Capitalといった新たな戦略的投資家も参加した。特筆すべきは、住友商事との合弁事業(JV)の立ち上げで、アジア市場に向けた「エンド・ツー・エンドの埋込型保険サービス」を共同で展開していく構想が示されている。

2-2. 調達資金の用途:AI・アフリカ・北米

調達資金の用途は多岐にわたるが、特に以下の3点に重点が置かれている:

  • R&Dの強化:AIやデータ分析機能を含むインシュアテック基盤の高度化
  • 新市場開拓:アフリカおよび北米への進出
  • 既存パートナーへの提供価値向上:リアルタイムでのリスク評価や契約処理の自動化など

3. 市場の競争環境とBolttechの優位性

3-1. 新興インシュアテックとの比較

埋込型保険市場は近年、Qover、Neat、Syncteraといったスタートアップの登場により活況を呈している。しかしBolttechは、保険会社とエコシステムを直接接続する「プラットフォーム型」で、スケールの大きさと戦略的連携の質において頭一つ抜けている。

3-2. 協調と競争の狭間で:Coopetition戦略

CEOのRob Schimek氏は、「競争相手はときに自前での開発(DIY)を選ぶが、私たちは “Coopetition(協調的競争)” という考えを持っている」と述べている。

「世界には依然として保護のギャップ(Protection Gap)が広がっており、保険へのアクセスを広げるには業界全体の連携が不可欠です。」

これは、敵対的な競争ではなく、相互補完的な市場拡大を狙う同社の哲学を表している。

4. パートナーと収益指標の進展

Bolttechは、Tokio Marine(東京海上)、MetLife、Allianz、AXA、Liberty Mutualといった世界的な保険会社に加え、Apple、Samsung、Orange、Lazada、Home Creditなどのプラットフォーマーとも連携しており、保険業界の枠を超えた展開を実現している。

注目すべきは、サービス対象数の大幅な増加が見られなかった一方で、年間保険見積額(Annualized Quoted Premiums)は600億ドル(約9兆円)に到達しており、顧客単価や取引ボリュームの増大が顕著となっている。

Bolttechは、保険を「売る」存在から、「流通のインフラ」へと昇華させつつある。住友商事とのJVをはじめとしたグローバル戦略は、単なる保険企業に留まらず、B2B2C型の金融インフラ企業としての地位を確立する布石となるだろう。

世界的なオンライン消費の加速、そして保険へのアクセス不足という社会課題を背景に、Bolttechがどのように「保険の当たり前」を再定義していくのか——その動向から目が離せない。