生成AIの普及に伴い、サイバー攻撃の自動化・高度化が進む中、防御側にもAIを駆使した革新的なセキュリティ技術が求められています。こうした潮流の中、米サンフランシスコ拠点のセキュリティスタートアップ「Horizon3.ai」が、新たに1億ドルの資金調達を進めていることが明らかになりました。本稿では、同社の事業内容、競争優位性、調達の背景、市場での位置づけを多角的に解説します。
1. Horizon3.aiとは何者か?:軍出身のエリートによる“攻めの防御”企業
1-1. 創業背景:軍事サイバー部隊の知見を民間へ
Horizon3.aiは、2019年に設立されたサイバーセキュリティ企業で、創業メンバーは米軍特殊作戦部隊のサイバーオペレーター出身者や大手企業のエンジニアらで構成されています。共同創業者でCEOを務めるスネハル・アンタニ(Snehal Antani)氏は、SplunkのCTOを経て、米軍統合特殊作戦コマンド(JSOC)でもサイバー部隊を率いた経験を持つ人物です。
1-2. 主要プロダクト:自律型ペネトレーションテスト
同社の主力製品は、「NodeZero」と呼ばれる自律型ペネトレーションテスト(APT)ツールです。これはAIを活用し、実際の攻撃者と同様の挙動でシステムの脆弱性を自動で診断・報告するもので、従来の手動診断に比べて迅速・低コスト・継続的なセキュリティ強化を実現します。
2. 資金調達の詳細と背景
2-1. 新たに最大1億ドルを調達
SECへの提出資料によると、Horizon3.aiは、現在までに7,300万ドルを確保済みであり、ラウンド全体では最大1億ドルの調達を目指しています。今回のラウンドのリード投資家は、米大手VCのNew Enterprise Associates(NEA)で、TechCrunchによるとバリュエーションは7億5,000万ドル超に達していると見られています(プレマネーかポストマネーかは未確認)。
2-2. 収益と成長性:年次経常収益は3,000万ドル
情報筋によれば、同社の年次経常収益(ARR)は約3,000万ドルに達しており、収益性の面でも順調な成長を遂げているようです。2024年2月には前年比101%の成長率を記録し、第4四半期のパイプライン目標の150%を上回る成果も報告されています。
3. 競争環境とNEAの投資戦略:Vezaに続く注目投資
3-1. サイバーセキュリティ分野で活発なNEA
NEAは2024年4月にも、アイデンティティセキュリティ企業「Veza」に1億800万ドルを投資したばかりであり、サイバーセキュリティ領域への集中的な資本投下を行っています。今回のHorizon3.aiへの投資は、NEAのポートフォリオにおける戦略的補完関係を示唆していると考えられます。
3-2. 市場におけるポジショニング
競合には、CrowdStrikeやPalo Alto Networksなどの大手が名を連ねますが、Horizon3.aiは、自律性と継続的実行性に特化した「攻撃者視点の防御」というユニークな立ち位置で差別化を図っています。特に中堅企業や連邦機関における導入が進んでおり、今月にはFedRAMP認証(連邦政府機関へのクラウド提供資格)も取得しました。
4. 自動化×AI時代の脅威と機会
4-1. AIによる攻撃とそれに対抗するAI防御
現在、生成AIの応用は攻撃側にも進んでおり、AIを用いたフィッシング、マルウェア生成、脆弱性スキャンといった“自動攻撃”が現実の脅威となっています。こうした中、AIを防御に用いる企業のニーズが急増しており、Horizon3.aiのアプローチはその最前線を担っています。
4-2. “防御の自動化”市場の勃興
Horizon3.aiのような企業は、「攻撃の自動化」への対抗策として、「防御の自動化」を提供する存在であり、今後数年で10億ドル規模の新興市場を形成すると予測されています。従来のシグネチャーベースの防御手法では対応できないゼロデイ攻撃や複雑な侵入経路の特定を自律的に行える点が、次世代セキュリティの核となるでしょう。
5. 今後の展望と注目ポイント
今後、Horizon3.aiが注目すべき成長戦略としては、以下の3点が挙げられます。
- 連邦政府市場の深耕(FedRAMP認証を武器に)
- APAC・欧州市場への展開
- インシデントレスポンスとの統合強化
CEOのアンタニ氏は過去に「我々の目標は、企業が自らの脆弱性を攻撃者よりも早く発見できるようにすること」と語っており、そのビジョンが市場に強く支持されていることがうかがえます。
Horizon3.aiは、AIと自律型テクノロジーを駆使し、サイバー攻撃者の視点を“自動的に再現”して防御を構築するというユニークなアプローチで注目を集めるスタートアップです。今回の資金調達により、さらなるスケーリングと技術革新が期待される中、AI時代における次世代セキュリティの鍵を握る企業の一つとして、その動向から目が離せません。