米国発のライドシェア大手Lyftが、ドイツのマルチモビリティアプリ「FREENOW」をBMWおよびMercedes-Benz Mobilityから1億9700万ドル(約310億円)で買収することを発表した。これにより、2012年の創業以来、米国とカナダに限定されていたLyftのサービスが初めて欧州市場へと拡大する。最大のライバルであるUberがすでにグローバルに展開する中、Lyftはこの買収によって次なる成長フェーズへ踏み出す。
1. 買収の概要と戦略的意義
1-1. 買収の基本情報
本取引は2025年後半の完了を見込んでおり、全額キャッシュによる買収である。買収対象のFREENOWは、ドイツに本拠を置き、9カ国150都市以上(オーストリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポーランド、スペイン、イギリス)でサービスを展開するタクシー・モビリティアプリである。
1-2. Lyftにとってのブレークスルー
Lyftはこれまで、米国とカナダのみに特化したオペレーションを続けてきたが、FREENOWの買収によってヨーロッパという巨大市場への参入が実現する。Lyft CEOのデービッド・リッシャー氏は次のように述べている。
「我々は“世界で最も顧客中心のモビリティプラットフォーム”を目指しており、ヨーロッパ進出はその成長の重要な一歩だ。FREENOWはLyftの価値観と重なる“ローカル・ファースト”の姿勢を持ち、学ぶべき点が多い。」
2. FREENOWとは何か:買収対象の正体
2-1. 欧州に根ざしたマルチモビリティ戦略
FREENOWは、元々「mytaxi」としてスタートし、BMWとDaimler(現Mercedes-Benz)の合弁により現在の形へと進化。タクシー配車を中心に、eスクーターや自転車、カーシェアリングなども統合した“マルチモビリティ”プラットフォームを展開している。
2-2. 収益化への転換と成長
2025年前半には、タクシー事業に戦略フォーカスした結果、前年比13%の成長と損益分岐点到達を実現したと発表。安定した収益基盤を確立したことで、Lyftにとっても即効性ある買収対象となった。
3. 成長インパクト:Lyftが得るもの
3-1. 市場規模の倍増
Lyftによれば、この買収により年間3,000億件を超える“パーソナル車両移動”市場へのアクセスが可能になる。さらに、年間グロスブッキング(総予約金額)は約11.4億ドル増加する見込みだという。
3-2. アプリの相互運用性とユーザー価値
短期的にはFREENOWのサービスは現状維持されるが、将来的には両社のアプリ統合が進み、「北米とヨーロッパのどちらでも1つのアプリで移動できる」環境が整えられる。これにより、国際旅行者にとっての利便性が向上し、ユーザー基盤の広がりも期待される。
4. BMW・メルセデスの戦略的撤退
BMWおよびMercedes-Benz Mobilityは今回の売却について次のように述べている。
「今後は、コア事業に注力するとともに、電動化、AI、脱炭素化といった重点領域に資源を振り向けていく。」
両社は一時期、モビリティ領域での連携に積極的だったが、自動車業界の本流であるEV化・ソフトウェア化への集中を強めるため、FREENOWの売却を決断したと考えられる。
5. 今後の課題と展望
Lyftにとっては、Uberがすでに圧倒的なシェアを握る欧州市場への進出は容易ではない。特に、規制・文化・パートナー戦略など、国ごとに異なるローカル要因に対応しながら統合を進める必要がある。一方で、FREENOWの「ローカル・ファースト」なオペレーションと現地パートナー網は、Lyftにとって貴重な足掛かりとなるだろう。
今回のFREENOW買収は、Lyftにとっての“脱北米依存”という意味で、企業としてのステージを一段引き上げるものだ。今後、統合の成否や欧州市場での戦い方次第で、Lyftの未来像は大きく変わっていくことになる。欧州という新天地で、Lyftが“真のグローバルプレイヤー”へと進化できるか注目される。