核融合エネルギーは、太陽が輝き続ける原理を地球上で再現し、クリーンでほぼ無限のエネルギー源を提供する可能性を秘めています。しかし、その商用化は長らく「30年先の夢」とされてきました。そんな中、米国のスタートアップ企業TAE Technologiesが、GoogleやChevronなどの大手企業から新たに1億5,000万ドル(約230億円)の資金を調達し、核融合エネルギーの実用化に向けて大きな前進を遂げています。(theguardian.com)
1. TAE Technologiesとは何か
TAE Technologiesは、1998年にカリフォルニア州で設立された核融合エネルギーの開発企業で、当初はTri Alpha Energyとして知られていました。同社は、従来のトカマク型とは異なる「フィールド反転構成(FRC)」という独自のプラズマ閉じ込め方式を採用し、特に水素とホウ素-11を燃料とする「アニュートロニック融合」に注力しています。この方式は、中性子をほとんど放出せず、放射性廃棄物の問題を大幅に軽減できるとされています。
2. 最新の資金調達とGoogleの関与
2025年6月、TAE Technologiesは、Google、Chevron、New Enterprise Associates(NEA)などから1億5,000万ドルを調達したことを発表しました。これにより、同社の累計調達額は約18億ドルに達し、核融合エネルギー分野で最も資金を集めた企業の一つとなっています。Googleは2014年からTAEと協力し、人工知能(AI)を活用してプラズマの最適化を行っており、以前は2か月かかっていた最適化プロセスを数時間に短縮することに成功しています。
3. 技術的ブレークスルー:Norm装置の成果
TAE Technologiesは、最新の実験装置「Norm」において、70百万度以上の高温プラズマを安定的に生成・維持することに成功しました。従来は2つのプラズマ球を衝突させて反応を開始していましたが、現在では中性粒子ビームのみでプラズマを形成・加熱・安定化できるようになり、装置の小型化、コスト削減、運用の簡素化が実現しています。 (tae.com)
4. 商用化へのロードマップ:Copernicusとその先
TAE Technologiesは、次世代の実験装置「Copernicus」を開発中で、これによりプラズマ温度を10億度(約1.8億°F)にまで引き上げることを目指しています。この高温は、水素とホウ素-11の融合反応を起こすために必要であり、同社は2030年代初頭までに商用核融合発電所を稼働させることを計画しています。 (interestingengineering.com)
5. 核融合エネルギーの経済性と課題
核融合エネルギーは、理論上はクリーンで無限のエネルギー源ですが、実際の商用化には高額な初期投資と技術的な課題が伴います。TAE TechnologiesのCEOであるMichl Binderbauer氏は、同社の技術が従来の核分裂発電と再生可能エネルギーの中間程度のコストで実現可能であると述べています。また、燃料である水素とホウ素-11は豊富で安価であり、放射性廃棄物の問題も最小限に抑えられるとされています。 (wired.com)
TAE Technologiesの最新の資金調達と技術的進展は、核融合エネルギーの商用化に向けた重要なステップとなっています。Googleなどの大手企業の支援を受けながら、同社は2030年代初頭の商用化を目指して研究開発を進めています。核融合エネルギーは、持続可能な未来のエネルギー源として大きな期待が寄せられており、今後の動向から目が離せません。