アフリカのデジタルバンキング市場で急成長を遂げているPalmPayが、シリーズBラウンドで最大1億ドルの資金調達を目指していると報じられている。2019年にナイジェリアで創業した同社は、既に黒字化を達成しており、登録ユーザー数は3,500万人、1日あたりの取引数は1,500万件を超える。この注目すべき成長の背景には、アフリカ特有の金融課題に最適化されたビジネスモデルと、グローバル資本との戦略的提携がある。
1. アフリカの「銀行空白地帯」を狙った起業背景
1-1. ナイジェリアの未銀行化層を起点に
PalmPayは、ナイジェリアという「金融アクセスの空白地帯」から事業をスタートした。創業当時、成人の半数以上が銀行口座を持たない状況で、既存の銀行は給与所得者など限定された層を対象にしていた。これに対しPalmPayは、即時口座開設、送金手数料ゼロ、少額ローンや保険などをスマホ経由で簡単に使えるアプリを開発し、庶民層や中小企業を主要ターゲットとした。
1-2. フィジカルな流通網を持つフィンテック
デジタルアプリにとどまらず、PalmPayは100万超の小売店舗やエージェントを通じて現金の入出金が可能な「リアルの接点」も築いた。これにより、月1,000万人以上がPOS端末やPalmPay Businessアプリを通じてサービスを利用している。このハイブリッド戦略は、OPayやMoniepointなど他のナイジェリア系フィンテックでも採用されているが、PalmPayの分散型ネットワークは特に強固とされている。
2. 収益構造と成長指標──「黒字化」の実力
2-1. 2023年の売上64百万ドル、そこから倍増へ
PalmPayは、過去のシードとシリーズAラウンドで合計1億4,000万ドルを調達済み。Financial Timesの報道によれば、2023年の売上は6,400万ドルに達し、それ以降さらに倍増したとされている。これは単なるGMV(総取扱高)ではなく、手数料やサービス利用料に基づく収益だ。
2-2. 利益を出すスタートアップへの進化
関係者によれば、現在PalmPayは、黒字化しており、成長企業の中でも稀な「利益を出すスタートアップ」に転じた。調達予定の1億ドルも、主に拡大投資と事業多角化に充てられる予定だ。具体的には、ナイジェリア市場の深耕、新興国向けの法人サービス拡大、新地域(アフリカ諸国およびアジア)への進出が挙げられている。
3. デバイス・フィンテック連携による「配布力」
3-1. Transsionとの戦略提携
PalmPayのユーザー拡大の大きな推進力となったのが、中国のスマートフォン大手Transsionとの提携だ。同社はTecnoやInfinixといったブランドでアフリカ市場の4割以上のシェアを持ち、PalmPayアプリを初期搭載した端末を販売している。これにより、ユーザーが端末を入手した時点でアプリが導入済みという強力な配布ルートを確保している。
3-2. 新興国への展開:タンザニアとバングラデシュ
すでにPalmPayは、アフリカ外初の進出としてバングラデシュに上陸し、デバイスファイナンスと少額クレジットを切り口に現地市場への参入を開始。今後はこの「スマホ×金融」モデルを他の南アジア市場でも展開していく方針だ。ナイジェリア国内でも、スマホ端末の分割販売モデルを展開予定とされている。
4. 法人向けのクロスボーダー送金も始動
PalmPayは、個人向けだけでなく法人領域でも新機能を立ち上げている。具体的には、ナイジェリア、ケニア、タンザニアで、法人顧客がアフリカ各国間で送金・回収を一元化できるAPIを提供中。これは、従来の国際送金の高コストやスピードの問題を解決するサービスであり、既に月間数億ドル規模の送金処理を行っているという。
5. 投資家と将来の展望
5-1. GICやMediaTekも出資
PalmPayには、シンガポールの政府系ファンドGICや、世界有数の半導体企業MediaTekも出資しており、単なるフィンテックではなく、モバイル・テックと融合した次世代型プラットフォームとしての期待も高い。
5-2. 上場も視野か
今回の資金調達における企業評価額は未公表だが、2021年時点でユニコーン目前とされていた。同社がアジア市場を足掛かりに更なる拡大を実現すれば、近い将来、IPOを含む資本市場への進出も現実的な選択肢になるだろう。