AI時代の新たなユニコーン──Cursorを生んだAnysphere、99億ドル評価の背景

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スタートアップ資金調達

わずか3年でユニコーンを超える規模に成長したAIスタートアップ、Anysphereが、またもや注目を集めている。AIコード補助ツール「Cursor」を展開する同社は、2025年、Thrive Capital主導の資金調達で9億ドルを獲得し、企業評価額は99億ドルに達した。年間経常収益(ARR)は5億ドルを突破し、驚異的なペースで成長を続ける。その急成長の背後には、プロダクトの特異性、収益モデルの進化、そして競合との微妙な距離感がある。

1. Anysphereとは何者か──3年で到達した「コードAI」の最前線

1-1. 創業3年、資金調達は3度目

Anysphereは設立からまだ3年という若い企業だが、今回のラウンドで3度目の資金調達を成功させている。前回のラウンドでは2.5Bドルの事前評価で1億ドルを調達したが、今回はその4倍近いバリュエーションで約9倍の資金を集めたことになる。

出資者には、Thrive Capital、Andreessen Horowitz(a16z)、Accel、DST Globalといった著名VCが名を連ね、AIセクターへの期待感を体現している。

1-2. 「vibe coder」の代表格、Cursorとは?

Cursorは、開発者向けのAIコードアシスタントで、「vibe coder」という新ジャンルのトップランナーとして知られる。コード補完・デバッグ・リファクタリングといった日常的なプログラミング作業をAIが補助することで、開発生産性を大幅に向上させる。

2. 驚異のARR成長──5億ドル突破の裏側

2-1. 2か月ごとにARR倍増

Cursorの収益成長は破格だ。TechCrunchによれば、ARRは2か月ごとに倍増しており、2025年6月時点で5億ドルを突破したという。わずか2か月前の4月には3億ドルだったことから、約60%の成長を実現している。

このスピードは、SaaSスタートアップとしては異例であり、AI時代における「プロダクト主導成長(PLG)」の教科書的事例とも言える。

2-2. サブスクリプションとエンタープライズの両輪モデル

Cursorの収益は、もともと個人ユーザーからのサブスクリプションが中心だった。無料トライアル後に、月額20ドルのProプランまたは40ドルのBusinessプランへと誘導するスタイルを採っている。

だが最近では、企業向けライセンスの提供を開始し、より高単価の収益源を確保し始めた。これにより、ARRの拡大スピードがさらに加速しているとみられる。

3. 巨人たちの関心と買収拒否

2025年初頭、AnysphereにはOpenAIを含む複数のプレイヤーから買収提案が寄せられたと報じられている。OpenAIは同時期に競合のWindsurfを30億ドルで買収しているが、Anysphereはこれらの提案を断った。

この判断は「Exit」より「独立成長」を重視する姿勢の現れであり、投資家にとっては長期的なバリュー拡大の可能性を示唆する出来事となった。

4. 今後の成長余地とリスク

Anysphereの今後には大きな期待が寄せられる一方で、競合の追随、AI倫理・規制への対応、プロダクトの継続的差別化などの課題もある。特にGoogleやMicrosoftのような巨大プレイヤーが本格参入した場合、開発者向けツールの領域は一気に競争が激化する可能性がある。

ただし、現時点でのARR成長スピードやプロダクト指向の強さを考慮すれば、Anysphereは「AI SaaS時代のFigma」になり得るポジションにある。