3D生成AI SpAItialがシードで1300万ドル資金調達

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スタートアップ資金調達

テキストから画像を生成するAI――ChatGPT-4oやStable Diffusionの登場により、その精度と活用は日々進化を続けている。しかし、「テキストから3D空間をリアルかつ一貫性のある形で生成する」という野望には、まだ誰も決定的な解を与えていない。

そんな中、欧州を代表するAI研究者の一人であるMatthias Niessner(マティアス・ニースナー)氏が、“次なる基盤モデル”を開発するべく新会社「SpAItial(スペイシャル)」を創業し、1300万ドル(約20億円超)という大型シード資金を調達した。まだプロダクトはティーザー動画のみという状況での大型調達は、欧州スタートアップとしては異例である。

本記事では、SpAItialが狙う3D生成AIの未来、その競争環境、そして彼らが挑戦する“聖杯”の正体に迫る。

1. SpAItialとは何か:3D生成モデルの新興プレイヤー

1-1. 創業の背景と資金調達

SpAItialの創業者、ニースナー氏はミュンヘン工科大学のビジュアルコンピューティング&AI研究室の教授であり、以前はAIアバター企業Synthesiaの共同創業者としても知られている。Synthesiaは2023年時点で評価額21億ドルに達した。

今回のSpAItialのシードラウンドには、Earlybird Venture Capital(UiPathやPeak Gamesなどを支援した著名VC)を筆頭に、Speedinvestや著名エンジェル投資家が参加している。プロダクトが未完成な段階での1300万ドル調達は、チームへの強い信頼を示すものだ。

1-2. 技術陣の顔ぶれ

SpAItialの技術チームは、名実ともに世界最高水準といえる。元Googleの3Dテレプレゼンス技術「Beam」に関与したRicardo Martin-Brualla氏、Metaでテキストから3D資産生成のプロジェクトを率いたDavid Novotny氏が参加している。ニースナー氏自身も、コンピュータビジョンと3D再構築の分野ではトップ研究者として知られる。

2. SpAItialが目指す“聖杯”:インタラクティブな3D世界

2-1. 「3Dオブジェクト生成」ではなく、「世界そのものの構築」

Niessner氏のビジョンは明快だ。「3Dオブジェクトを並べるのではなく、世界そのものがリアルに振る舞う必要がある。コップが割れ、物が動き、ユーザーが干渉できる。誰もそれをまだ実現していない」と語る。

これは単なる3Dのレンダリングではなく、リアルタイムで物理的に正確かつインタラクティブな空間生成を意味している。目指すは、「10歳の子どもがテキストでゲームを10分で作れる世界」だという。

2-2. 動機づけとユースケース

現時点で3D生成AIの需要は明確ではないが、ビデオゲーム制作、エンタメ、建築ビジュアライゼーション、ロボット訓練、AR/VR体験など多岐にわたる可能性を秘めている。VCたちはこれを「兆ドル規模の市場」と見るが、実際のマネタイズモデルはまだ曖昧だ。

3. 市場環境と競合:黎明期の競争構図

3-1. 主な競合プレイヤーたち

SpAItialが挑むのは、競争が激化しつつある“テキストから3D”領域である。競合には、エンタメ特化のOdyssey(2700万ドル調達)や、AI界の重鎮Fei-Fei Li氏が立ち上げたWorld Labs(既に10億ドル評価)などがいる。

とはいえ、Niessner氏は「画像生成や動画生成に比べれば、競合の数はまだ少ない。今がチャンスだ」と語る。

3-2. 差別化のカギは“行動可能性”にあり

多くのプレイヤーが視覚的リアリズムを追求する中、SpAItialの狙いはインタラクティブ性にある。これは単なるビジュアル再現を超え、「世界内での行動と反応」をモデル化することを意味する。

4. ビジネス戦略と収益化の道筋

4-1. Foundation Modelのライセンス提供戦略

SpAItialは、基盤モデルそのものを企業にライセンス提供し、下流アプリケーション(用途特化)の開発はパートナー企業に委ねるモデルを想定している。これは、汎用モデルを軸としたOpenAIやAnthropicのアプローチに近い。

同社では、既に数社のパートナー企業とのAPI連携テストを進めている。初期段階では“質”重視の開発とパートナー選定が鍵になる。

4-2. 少数精鋭・計算資源への投資

SpAItialは「初期から数百人規模にはしない。優秀な少人数チームで構築する」と方針を明確にしている。また、大規模な学習には計算資源の投資が不可欠であり、調達資金の大半はこれに充てられると見られる。

SpAItialの挑戦は、「誰もがインタラクティブな3D世界を創造できる時代」の幕開けを告げるものかもしれない。画像生成がすでに商用レベルに到達した今、次なる地平は“空間”である。

ニースナー氏の目指す未来では、CADツールやゲームエンジンすら過去のものとなり、「プロンプト一つで3D体験を構築できる」世界が現実になるかもしれない。

SpAItialのティーザー動画は、まだプロローグにすぎない。だが、この領域における欧州の一手として、そして「聖杯」に最も近づいたスタートアップとして、今後の一挙手一投足に注目が集まる。