FlexによるMazaの買収:米国フィンテック業界で進むM&Aの新潮流

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米国フィンテック市場において、2025年に入りM&A(合併・買収)の動きが活発化している。その中でも注目されるのが、ビジネスオーナー向けパーソナルファイナンスアプリ「Flex」による、スペイン語話者向け金融アプリ「Maza」の買収である。買収額は4,000万ドル。両社の提供サービスは一見すると異なるように見えるが、その融合には、急成長するスモールビジネス市場と多様化する顧客ニーズという、米国フィンテック市場の構造変化が背景にある。

1. 買収の概要と背景

1-1. 異なる顧客セグメントを狙った両社

Flexは、主に中小ビジネスオーナー向けに、クレジットカードや決済、会計処理などの金融インフラを提供するスタートアップ。一方のMazaは、スペイン語話者、特に移民層向けに、ITIN取得、銀行口座開設、デビットカード発行などを支援する金融サービスを展開していた。

しかし時間の経過とともに、Mazaの顧客層の多くが、造園業者や清掃業、建設業などのスモールビジネスオーナー(ソロプレナー)であることが明らかになり、2024年には前年比290%の売上成長、25万人のユーザー数を記録。この事実がFlexの目に留まり、今回の買収につながった。

2. 両社が目指すビジネスの統合的ビジョン

2-1. “個人と事業”の境界をなくす戦略

FlexのCEO、ザイド・ラフマン氏は、買収の狙いについて次のように語っている。

「両社とも、“消費者としての顔を持つ事業主”をターゲットとしてきました。その境界が曖昧になる中で、別々の製品を開発するのではなく、一つに統合する方がはるかに合理的だと判断しました」

Mazaの創業者ルチアーノ・アランゴ氏も、「断片化された金融ツールに苦しんできた起業家として、この統合は自然な流れだった」と語る。

2-2. 今後の組織とブランド展開

買収後、Mazaは「Flex Consumer」としてブランド転換し、創業者3名はFlex内の幹部ポジションに就任する。FlexとMazaの統合により、個人の資産管理とビジネス運営の双方を一元管理できる“エンド・ツー・エンド型プラットフォーム”としての進化が期待されている。

3. Mazaの急成長と投資家の構成

3-1. シリーズAで15百万ドルを調達

Mazaは、2024年に未公開で1,500万ドルのシリーズA資金調達を実施。リード投資家はWellington Managementで、Andreessen Horowitz (a16z)、Tusk Venture Partners、Titanium Venturesなどが参加。著名人では歌手のAnderson .Paak、元American Express銀行CEOのAnré Williamsも出資者に名を連ねる。

創業は2022年と比較的新しく、これまでの累計資金調達額は2,400万ドル。Flexも同年創業で、4,500万ドルのエクイティ調達と3億ドルの信用枠を有し、2025年3月時点の評価額は2億5,000万ドルとされている。

4. フィンテック業界におけるM&Aトレンド

4-1. データで見るM&Aの加速

CB Insightsの「State of Venture Q1 2025」によれば、フィンテック業界では2024年第4四半期に191件、2025年第1四半期には184件のM&Aが報告されている。これは2024年第3四半期の143件から大幅な増加であり、「再編による成長戦略」が加速していることを示す。

4-2. 他の注目事例

最近では、埋込型金融(Embedded Finance)を提供するPipeが、AIによる経費管理のGlean.aiを買収。また、CheckrによるTruework(収入と雇用の認証サービス)の買収も発表された。いずれも、スモールビジネス支援の深耕やAIによる業務自動化といったニーズに対応する動きと捉えられる。

5. 今後の展望と課題

Mazaの買収は、単なるユーザー拡大ではなく、「個人」と「事業主」の金融ニーズを統合するプラットフォーム構築への布石である。特に米国では、移民系ソロプレナーの数が年々増加しており、彼らを主顧客とする戦略は市場の波に合致している。

一方で、金融インフラの統合には、KYC(本人確認)プロセスや規制対応の複雑さも伴う。FlexとMazaがこれをどこまで技術で解決できるかが、今後のスケーラビリティを左右する鍵となるだろう。

今回のFlexによるMazaの買収は、単なる事業統合ではなく、「分断された金融体験の再編」を象徴する動きである。フィンテックM&Aが加速するなかで、こうした垂直統合とユーザー中心のサービス構築は、次の成長フェーズの起点となるだろう。