2025年、クラウドモニタリングとセキュリティの分野で成長を続けるDatadogが、データ可観測性スタートアップであるMetaplaneを買収した。この動きは、単なるテクノロジーの統合を超え、Datadogの事業領域を「アプリケーション可観測性」から「データ可観測性」へと広げる戦略的な一歩となる。この記事では、買収の背景や狙い、Metaplaneの技術的特徴、市場環境、今後の展望を整理し、Datadogの成長戦略を読み解く。
1. Datadogが描く「統合可観測性」戦略の深化
1-1. なぜ今「データ可観測性」なのか?
Datadogのバイスプレジデント、マイケル・ウェッテン氏は次のように述べている。
「可観測性はもはや開発者やITチームだけのものではありません。データチームにとっても、日々の業務で欠かせない要素になっています。」
これは、企業がAIを業務に取り入れる中で、アプリケーションだけでなく、その裏側にあるデータパイプラインの信頼性確保が重要課題になっていることを意味する。特に、AIアプリケーションではデータの欠損や異常が予測不能な誤作動を引き起こすリスクがあるため、データの状態をリアルタイムに把握・管理できる環境整備が必須となる。
1-2. Datadogの既存製品との連携
Metaplaneの買収は、Datadogが既に展開しているデータジョブやストリームモニタリング機能の延長線上にある。同社は2025年1月にもログ検索向けのクラウドネイティブエンジン「Quickwit」を買収しており、複数の観測対象(アプリ、ログ、データ)を一元的に可視化・運用できるプラットフォーム構想を着実に進めている。
2. Metaplaneとは何者か?
2-1. 創業の背景とピボットの軌跡
Metaplaneは2020年、MIT出身のケビン・フー氏、元HubSpotのピーター・カシネリ氏、元Appcuesのグル・マヘンドラン氏の3名により設立された。当初は「顧客離脱を防ぐ分析ツール」としてスタートしたが、パンデミックの影響を受けY Combinator参加後にデータ可観測性領域へと方向転換した。
2-2. 中核技術:異常検知とデータリネージ
Metaplaneの主力技術は、過去のメタデータに基づいて訓練されたAIモデルによる異常検知である。データウェアハウス内のデータ系統(リネージ)を自動的に構築し、SlackやPagerDutyといった通知ツールを通じて関係者に問題を即時通知する。ユーザーが通知に対して「想定内か否か」をフィードバックすることで、モデルは学習を繰り返し精度を高めていく。
2-3. 資金調達と投資家
これまでにKhosla VenturesやY Combinator、Flybridge Capital、Vercel CEOギレルモ・ラウチ氏、HubSpot CTOダルメッシュ・シャー氏らから合計2,220万ドルを調達してきた。2023年時点で社員数は約10名と、極めてスリムな組織での開発が行われていた。
3. なぜDatadogはMetaplaneを選んだのか?
3-1. 市場の成長性
Grand View Researchの調査によれば、データ可観測性市場は2023年に21.4億ドル規模に達し、2030年まで年平均12.2%の成長が見込まれている。この分野は、今後のAI普及を支えるインフラとして、きわめて注目度が高い。
3-2. 競合の存在と差別化
この領域にはMonte Carlo、Cribl、Observe、Coralogixなど多くの有力プレイヤーが存在する。Datadogは、買収と自社開発を組み合わせることで、アプリとデータの両方を一元管理できる「統合可観測性」という独自ポジショニングを狙っている。
3-3. 顧客基盤の拡大効果
Metaplaneは今後、「Metaplane by Datadog」として再ブランド化され、既存顧客の支援を継続しつつ、Datadogの巨大な販売網と統合されることになる。創業者フー氏は次のように述べている。
「私たちの使命は、企業が自らのビジネスを支えるデータを信頼できるようにすることです。Datadogとの統合により、何万社もの企業にその価値を届けられるようになります。」
4. 今後の展望:AIインフラ企業としてのDatadog
Datadogは、アプリケーションの可観測性という従来の枠組みを超え、AIを前提とした新しい運用監視インフラの構築を目指している。今回のMetaplane買収は、まさにその第一歩であり、AIが「コード」と「データ」の両輪で動く世界において、Datadogが両方をカバーできる数少ないプレイヤーになる可能性を示唆している。
DatadogによるMetaplaneの買収は、単なる技術補完ではなく、AI時代の統合可観測性プラットフォームへと進化するための布石である。今後、AIの本格的な業務活用が進むにつれ、「アプリの監視」だけでなく「データの信頼性担保」が企業にとって不可欠となる。Datadogがそのニーズにどう応えるか、今後の製品戦略に注目が集まる。