「自己理解」「メンタルケア」「目標達成」──これらは従来、カウンセリングやコーチングといった人的な支援に頼ってきた領域だ。しかしいま、人工知能(AI)を活用した対話型ジャーナリングアプリ「Rosebud」が、個人の内面に寄り添うパーソナル・メンターとして注目を集めている。
2023年に創業したRosebudは、ユーザーのジャーナル(内省的な記録)をAIが読み取り、そこから思考パターンや感情の傾向を分析し、問いかけやアドバイスを提供するという新しい体験を提供している。人間のセラピストでは不可能だったスケーラブルな“内面支援”を、AIが可能にする時代が到来しつつあるのだ。
本記事では、Rosebudの開発背景、技術的なアプローチ、資金調達の詳細、そして今後の展望について、開発者の発言も交えて解説する。
1. Rosebudとは何か──AIが“心のコーチ”になる構造
1-1. ジャーナリング×AI=自己理解の加速装置
Rosebudは、単なる日記アプリではない。ユーザーが書いた文章(例:悩み、目標、気持ち)をAIが解析し、時間をかけて現れるパターンや癖を可視化。それに対して問いかけや助言を投げかけ、自発的な気づきと変化を促す仕組みだ。
同社の説明によれば、「まるで人間のメンターのように、ユーザーを理解し、応援し、変化を支援する」ことを目指しているという。
「誰もが異なる感情の言語を持っている。AIは、それぞれに合った支援の形を理解し、適応できる唯一の手段だ」──共同創業者 Chrys Bader(TechCrunchインタビューより)
たとえば、あるユーザーには「やさしい承認」が適切だが、別のユーザーには「厳しい挑戦」が必要かもしれない。Rosebudは、AIを通じてその“適切な距離感”を模索し続ける。
1-2. 驚異の利用実績──5億語・3,000万分の内省
リリース以来、Rosebudのユーザーは5億語以上の文章を記録し、3,000万分以上をアプリ内で過ごしたという。この数字は、人々が自らの内面と向き合う手段として、AIジャーナリングが一定のニーズを満たしていることを示している。
2. 創業背景──「心の空白」を埋めるための出発点
Rosebudの創業者は、Y Combinator出身の起業家Chrys Baderと、カリフォルニア大学バークレー校で認知科学を学んだSean Dadashi。2人はメンズグループ(男性向けの対話コミュニティ)で出会い、共に過去のセラピー経験やコーチングから着想を得て、AIメンターという発想にたどり着いた。
「人生のある時期に良いメンターがいたときは前に進めた。いなかった時期は、苦しかった。その差をAIで埋めたい」──共同創業者 Sean Dadashi
メンタリングの恩恵を“万人に解放する”。これが彼らの根源的なミッションである。
3. 技術とプライバシー──Rosebudの差別化要素
3-1. 長期記憶と感情理解のエンジン
Rosebudの特徴は、単なる言語生成ではなく、「長期的な文脈記憶」や「感情の傾向分析」を内蔵している点にある。これにより、日々の小さな思考や感情を連続的に把握し、時間をかけた自己成長のプロセスを支援できる。
3-2. 徹底されたプライバシー管理
同社は、ユーザーのジャーナルデータについて「すべて暗号化され、第三者と共有されることはない」と強調。また、AIのトレーニングデータにも使用されない仕組みを採っている。これは、内省という極めてプライベートな行為における信頼確保の鍵だ。
4. 資金調達と今後の展望──“デジタル・メンター”の社会実装へ
2025年、Rosebudは、600万ドルのシード資金調達を発表。主な出資者には、Bessemer Venture Partners、Initialized Capital、Fuel Capital、さらには著名投資家Tim Ferrissらが名を連ねる。
資金は以下に活用される予定だ:
- エンジニアリング・プロダクト人材の増強
- 独自AIメモリエンジンへの追加投資
- マーケティングと認知拡大
- 教育機関・企業・医療現場との連携模索
「父親になる直前の人に向けて、パーソナライズされた記録やリソースを提案する──そんなAIが常に“あなたを考えてくれる存在”になる未来が見えてきた」──Dadashiの展望
5. 有料モデルとプロダクト戦略
Rosebudの基本機能は、無料で提供されているが、月額$12.99の有料プランに加入することで、以下のプレミアム機能が利用可能となる:
- 長期的記憶機能(履歴を学習して継続支援)
- 音声・通話による対話モード
- 個別化されたガイドの提供
このように、有料ユーザーからの収益によってプロダクトを持続的に進化させるモデルを採用している。
Rosebudが示すのは、AIが単なる道具ではなく「人間の変化と成長の伴走者」になる可能性だ。メンタルヘルスの民主化、自己理解の深化、目標達成への支援──それらを1人でも多くの人に届けるという挑戦は始まったばかりである。
「あなたのために思考するAI」──それが、次世代ジャーナリングの本質かもしれない。