2025年5月、Employer.comは、スタートアップ向けに研究開発(R&D)税額控除の最適化を支援するフィンテック企業MainStreet.comを買収しました。この買収は、Employer.comが中小企業向けのバックオフィス業務を一元化する戦略の一環として行われたものであり、同社の成長戦略における重要なマイルストーンとなっています。
1. MainStreet.comの概要と成長軌跡
1-1. 創業とビジネスモデル
MainStreet.comは2019年にカリフォルニア州サンノゼで設立され、スタートアップ企業が利用可能なR&D税額控除を発見し、申請を支援するサービスを提供してきました。同社は、クライアントが受け取る税額控除の一部を手数料として収益化するモデルを採用し、初年度には年間経常収益(ARR)で100万ドルを超える成果を上げました。
1-2. 成長と課題
2021年には、MainStreetの収益は1,500万ドルを超え、平均的なクライアントは約51,000ドルの税額控除を受けることができました。しかし、2022年には市場の厳しさから従業員の約30%を削減するなどの課題にも直面しました。それにもかかわらず、同社はSignalFireやGradient Venturesなどから約7,500万ドルのベンチャー資金を調達し、最盛期には5億ドルの評価を受けていました。
2. Employer.comの戦略と買収の背景
2-1. Employer.comのビジョン
Employer.comは、労務管理とビジネス支援ソリューションを提供する企業であり、中小企業のバックオフィス業務を自動化し、効率化することを目指しています。同社の共同創業者であるジェシー・ティンズリー氏は、「ビジネスのバックオフィスソリューションを一つの強力なプラットフォームに統合するために力を合わせる」と述べ、MainStreetの買収がこのビジョンに沿ったものであることを強調しました。
2-2. Bench Accountingの買収
Employer.comは、2024年末にカナダの会計スタートアップBench Accountingを買収しました。Benchは突然の業務停止により顧客がアカウントにアクセスできなくなる事態を引き起こしましたが、Employer.comは迅速に対応し、サービスの継続性を確保しました。この買収により、Employer.comは会計サービスの強化を図り、MainStreetの買収と合わせて、バックオフィス業務の包括的なソリューションを提供する体制を整えました。(internationalaccountingbulletin.com)
3. MainStreetの買収によるシナジーと今後の展望
3-1. 税額控除サービスの強化
MainStreetのR&D税額控除に関する専門知識と技術は、Employer.comの既存のサービスと統合されることで、クライアントに対する付加価値を高めることが期待されます。特に、MainStreetのAIを活用した税額控除の自動化技術は、申請プロセスの効率化と正確性の向上に寄与するでしょう。
3-2. 中小企業向けサービスの拡充
Employer.comは、MainStreetの15人のチームを迎え入れ、全体で約500人の従業員体制となりました。これにより、税務、会計、労務管理などのバックオフィス業務を一元的にサポートする体制が強化され、中小企業にとって使いやすく、包括的なサービス提供が可能となります。
4. 中小企業にとっての影響と利点
4-1. ワンストップソリューションの提供
MainStreetの買収により、Employer.comは中小企業に対して、税額控除の発見から申請、会計処理、労務管理までを一貫してサポートするワンストップソリューションを提供できるようになります。これにより、企業は複数のサービスプロバイダーを利用する必要がなくなり、業務の効率化とコスト削減が期待されます。
4-2. 専門知識と技術の活用
MainStreetの専門知識とAI技術を活用することで、税額控除の申請プロセスが自動化され、正確性が向上します。これにより、中小企業は税務リスクを軽減し、最大限の節税効果を享受することが可能となります。
Employer.comによるMainStreetの買収は、中小企業向けのバックオフィス業務を効率化し、統合する戦略の一環として重要な意味を持ちます。税額控除の専門知識とAI技術を取り入れることで、Employer.comは中小企業に対して包括的で効率的なサービスを提供し、成長を支援する体制を強化しています。今後も、同社の動向に注目が集まることでしょう。